コラム2019.06.25
Stadiaがゲーム業界に新しい波を引き起こす!? Google発クラウドゲーミングサービス「Stadia」とは

2019年3月19日にGoogleが発表した「Stadia」によるゲーム事業への参入は、ゲーム業界に激震を走らせました。そこで本稿では、Googleの新たなクラウドゲーミングサービスであるStadiaの全容を確認するとともに、Stadiaがプレイヤーやデベロッパー、今後のゲーム業界に及ぼす影響、そしてゲームを世界発信する上でのカスタマーサポートの重要性などについて考察します。
Stadiaについて
まずはGoogleが発表したStadiaについて、どのようなものかを確認していきます。
Stadiaの特徴
Stadiaは10.7teraflopsという圧倒的なGPU(画像処理装置)を誇り、プレイステーション4 ProのGPU4.2や、Xbox one XのGPU6.0と比較しても、各段に高性能なことが分かります。リリース時には4K解像度でHDR対応の映像を60fpsで出力できるスペックを有する予定で、将来的には8K解像度の120fps以上の性能を目指すとのことです。
参照元
https://stadia.dev/about/
https://www.playstation.com/en-gb/explore/ps4/tech-specs/
https://www.xbox.com/en-US/xbox-one-x
しかしゲーム業界を驚かせたのは、この高性能ゲームを「PCやテレビ、モバイル端末(一部を除く)」のいずれからでも楽しめるという配信方式です。Stadiaに対応したデバイスを所有し適切なインターネット接続があれば、この高性能ゲームをどこからでも楽しむことができるのです。ゲーム機や専用PCを購入する必要はありません。ユーザーに高性能ゲームの提供を可能にするのが、Googleが発表したクラウドゲーミングサービス「Stadia」です。
クラウドゲーミングサービスとしてのStadia
従来のゲームプラットフォームはゲームを提供することが主な目的で、プレイヤーは購入したゲームをゲーム端末やPC、モバイルにダウンロードして利用するというのが一般的でした。高性能ゲームをストレスなく楽しむためには、その性能に耐えうるだけの優れた端末が必要でした。
しかしながらクラウドゲーミングサービスでは、プレイヤーは運営者の所有する高性能データセンターを利用してゲームを楽しむことができます。これは利用者一人ひとりに、高性能ゲーム機が与えられているのと同じ状態です。プレイヤーが操作した情報は、インターネット通信を介してデータセンターに送られ、そこで処理されたデータが映像として端末に映し出されます。つまり、プレイヤーが使用する端末はゲームを投影するモニターとして機能するため、性能の低い端末であっても高性能のゲームを楽しむことができるのです。
しかし、万能に見えるクラウドゲーミングサービスにも課題はあります。これらの処理はすべてインターネットを介して行われるため、非常に多くのデータ転送量が必要であり、複雑な通信経路を経るために遅延が発生すると指摘されています。そのような物理的な問題を、StadiaはGoogleが世界中に所有するデータセンターを利用することで解決しています。独自の通信経路を築くことで、遅延を最小限に抑えながら、他の企業と比べて少ないデータ転送量でクラウド型のゲームプラットフォームを運営することができるのです。Stadiaの登場により、誰もが、どこでも、手軽に、そして安価に最先端のゲームを楽しめる時代がやってくる可能性があります。
Stadiaは「Google chrome」を搭載した端末、もしくは「Chromecast」を接続したPC、テレビ、タブレット、スマホなどで利用できるようになる予定です。また、Wi-Fi接続で使用できるStadia専用コントローラーも設計されています。

さらにStadiaはYouTubeとhttps://stadia.dev/about/の連携を発表していますので、ゲームとYouTubeの関係性がより濃厚になることでしょう。ゲームプレイを楽しむだけではなく、他の人のプレイを視聴して楽しんだり、自分のプレイをシェアして意見交換を楽しんだりするなど、ゲームの楽しみ方に多様性が出てくることも考えられます。
Stadiaの発表とローンチ情報、最新のベータテスト情報
2019年3月19日(現地時間)、サンフランシスコにて開催されたゲーム開発者イベントGDC(Game Developers conference)の2日目にStadiaは正式発表されました。まずは2019年11月にアメリカ、カナダ、ヨーロッパ諸国の計14か国で、日本を含めたその他の国では2020年以降にサービスが開始される予定です。
また、Stadiaの機能を最大限楽しめる「Stadia Pro」は月額$9.99で、4K、60fps、HDR、サラウンドに対応しており、一部のゲームソフトが無料で楽しめます。月額無料の「Stadia Base」では、1080p、60fps、ステレオサウンドでの利用となり、有料ソフトを購入することでゲームを楽しむことが可能です。Stadia Proはローンチ予定の2019年11月から利用可能ですが、Stadia Baseは2020年より利用が開始される予定です。
参照:https://www.youtube.com/watch?v=hl-Y1QVhmcM&t= /
GDCでの発表 Googleは2019年5月9日(現地時間)に、開発者向けのイベント「Google I/O 2019」でStadia体験会を開催しました。実際にStadiaを使用した参加者からは、遅延がほとんど気にならなかったという声が多く、期待は高まるばかりです。

Stadia誕生の背景
このように大きな話題となっているStadiaですが、Googleのゲーム市場参入は決して早いほうではありません。GDC(2019年3月18日〜22日)の記者会見でGoogleはStadiaの目的について「誰もが利用できるゲームプラットフォームを構築する」ことだと述べました。
また、Game Industry※の取材に対して、Google副社長兼ゼネラルマネージャーのPhil Harrison氏はGoogleがゲーム市場に参入した理由を「決してゲーム端末に依存するゲーム業界を否定したものではなく、StadiaはGoogleが目指す未来の形と一致するためだ」と説明しています。Googleは過去のゲーム業界の歴史は尊重しながらも、これまでコンソールに頼ってきたゲーム業界を脱却した新時代のゲームプラットフォームの構築を目指しているとのことです。Google社が掲げるミッション「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」を成し遂げるためにゲーム業界に参入し、それを成し遂げるための手段がStadiaであると考えられます。
※gameindustry.bizの取材内容
https://www.gamesindustry.biz/articles/2019-03-20-phil-harrison-stadia-starts-an-inevitable-and-one-way-shift-away-from-consoles
Stadiaをめぐる近況
Stadiaが発表されたことで、ゲーム業界ならびにゲーム関係者に広がる影響を考察します。
Stadiaがプレイヤーに及ぼす影響
Stadiaの最大の魅力、それは既述の通り、高性能のゲームをどこからでも、どの端末からでも気軽に楽しむことができることでしょう。これまでゲームをしていなかった人も新しいプレイヤーになることは十分に考えられ、世界のゲーム市場を成長させる可能性を秘めています。

Stadiaがデベロッパーに及ぼす影響
Stadiaは巨大ゲーム市場を生み出す可能性を秘めているため、Stadiaでの成功はデベロッパーの大きな収益につながります。またGPUを気にせずに高性能ゲームを設計できるというのは、ゲーム開発を手がけるデベロッパーにとって大きな魅力となるでしょう。GPU制限などのために実現困難とされてきたゲームが、近い将来設計されるかもしれません。

配信ゲームに関しては、2019年3月19日にid softwareが手掛ける『Doom Eternal』とユービーアイソフトが手掛ける『アサシンクリード・オデッセイ』が正式に発表されました。同年6月6日にはさらに約30タイトルが追加発表されています。Stadia独占配信となる『Gylt』や『Get Packed』の他、スクウェア・エニックスの『FINAL FANTASY 15』やバンダイナムコエンターテイメントの『ドラゴンボールゼノバース2』などの注目タイトルが名を連ねています。 StadiaのWebサイトでは、デベロッパーに向けたページが準備され、共にゲーム開発を行うデベロッパーを随時募集しています。

Stadiaとのパートナーシップを締結した企業
2019年3月19日(現地時間)のGDCのStadia発表時に、Googleはすでに多くの企業とパートナー契約を締結したことを明らかにしています。主な企業やサービスとしては、動画配信サービスのYouTube、半導体メーカーのAMD、ゲームエンジンで有名なUnityやHavok、グラフィック関連のVulkanやLinuxなどです。StadiaのWebサイトではパートナーの募集も行われていますので、今後、さらに増えていくと考えられます。

PCゲームプラットフォーム「Steam」との違い
以前「Steamの人気の背景と、PCゲームを世界発信する際に押さえていきたいポイント」で紹介したPCゲームプラットフォームとして有名な「Steam」は、気になるゲームをSteamサイトを通じて購入し、登録アカウントを利用することで、どのパソコンからでもゲームを楽しむことができます。Stadiaとの大きな違いは、ゲームを端末にダウンロードする点。ダウンロードしてしまえば、一部機能を除き、オフラインでも楽しめるためプレイヤーたちに人気のゲームプラットフォームになりました。しかし、基本的にはゲームをダウンロードして利用するため、パソコンの容量を圧迫してしまったり、ゲームの性能にPCの性能が追い付かず動きが遅くなってしまったりすることがあります。
他社のクラウド型ゲーミングサービスの最新情報
ここまで、Googleの「Stadia」について紹介してきましたが、Google以外の企業も、実はクラウドゲーミングサービスの設計に取り組んでいます。ここでいくつか紹介します。
ソニー
ソニーはゲーム業界の中でいち早くクラウドゲーミングサービスの提供を「playstation Now」 として開始しました。「playstation Now」では、毎月一定額の金額を支払うことによって、Playstation4や3で配信されたゲームを、Playstation4やWindowsPCにて楽しむことが可能です。しかしながら、Playstation4のタイトルを遅延なく楽しむためには、ゲームデータの一部を端末にダウンロードする必要がある、デバイスがPS4やWindowsPCに限られている、高性能ゲームを楽しもうとすると接続が途切れてしまうなどの問題も含んでいたようです。そのような中、ソニーは2019年5月17日、クラウドサービスを得意とするMicrosoftと企業連携を結んだことを発表しました。これにより、ソニーのクラウドゲーミングサービスが大きく進化する可能性があり、今後の動向に注目が集まっています。

Microsoft
Microsoftは、2018年10月8日にクラウドゲーミングサービス「Project X cloud」を発表しました。Stadiaと同時期となる2019年の終り頃をめどに、トライアル実施を開始するようです。Project X cloudでは、すでに販売されている「Xbox one」の全タイトルがリストアップされており、ローンチ当初から多くのゲームを楽しむことができそうです。また現在、カプコンやParadox Interactiveなどの企業がゲームを新たに提供することを明言しており、新規の配信ゲームタイトルにも期待が集まっています。

NVIDIA
NVIDIAが開発を手掛ける「GeForce NOW Aliance」も同様に、さまざまなゲームをクラウドゲーミングサービスで提供するゲームプラットフォームです。元々GeForceはPCに特化したゲームプラットフォームでしたが、PCの他、スマートフォン、タブレットなどでもゲームをプレイすることができるようになる見通しです。また現状では、GeForce NOW AlianceはGPU10程度の性能になると予定されており、Stadiaに負けず劣らずの高性能なゲームを楽しめるクラウドゲーミングサービスになるのではないかと期待が高まっています。2019年末に日本でのサービス開始が予定されており、日本上陸はGeForce NOW AlianceがStadiaよりも先になりそうです。

Stadiaが導くゲーム業界の今後
このように2019年はゲーム業界にとって大きな変革期となることが予想されます。『高性能ゲーム=高価なデバイス&限定された環境』であった構図が『高性能ゲーム=対応デバイスならいつでも&どこでも』に変わることにより、これまでゲームに興味を持たなかった人々やプレイしたくてもできなかった人々が、ゲーム市場に流入することが考えられます。これはモバイルゲームの盛況ぶりからも窺い知れます。どこでも、気軽に低価格で楽しめるモバイルゲームは、あまりゲームに興味のなかった人々をも大量に巻き込み、ゲームを大衆化させました。昨今のゲーム業界の波もこれに追随する可能性があり、デベロッパーにとって、この大きな波を見逃す手はありません。ゲーム業界で起こり得る変化を少しでも早く先読みし、その環境下で勝ち残る戦略を練る必要があるでしょう。 またStadiaが今後、世界中でローンチされるようになれば、もちろんデベロッパーは、ゲームを「世界対応化」していく必要があります。これまで一部のゲーム会社のみが成し遂げてきたゲームの「世界対応化」が当たり前の時代は、すぐそこまで来ているのかもしれません。

カスタマーサポートが支えるゲーム業界の未来の形
「世界対応化」を図るには、いくつもの乗り越えなけばならない壁があります。そのうちの一つが、世界中から寄せられるようになる問い合わせへの対処です。ゲームが多言語化されることにより、世界中から、ゲームのシステムや不具合に関する問い合わせが寄せられるようになります。それらの対応を個々のデベロッパーが行うのは、よほど巨大な企業でない限り難しいでしょう。そのため、多くのデベロッパーはゲームを世界発信する際、専門のカスタマーサポート支援・代行サービスを利用します。365日でサポートを代行している企業も多く、顧客からの問い合わせに即座に対応し、内容によっては問い合わせを翻訳し、デベロッパーにエスカレーションします。そして、デベロッパーからの回答文を再度翻訳し、顧客に短時間で返信します。弊社・アディッシュも、多言語によるカスタマーサポートの支援・代行を行っている企業の一つで、10を超える言語に対応しています。これらのカスタマーサポート支援・代行サービスを利用することで、ゲームを世界配信する際の負担を軽減し、長期的なゲームサービスの提供が可能になります。
まとめ
Stadiaがゲーム業界にもたらすであろう変化についてまとめてみました。今後もサービス開始に向けてStadiaの全容が明らかになるにつれ、さらなる驚きを届けてくれるかもしれません。弊社も最新の動向に注目し、このゲーム変革に対応できるサポート支援が出来るように取り組んでいきます。