コラム2019.12.24
フィリピンで利用されるフィンテックサービスとカスタマーサポート設置状況を調査。フィリピン経済とファイナンス事情とあわせて紹介

フィリピンは高い経済成長率を維持していることに加え、人口増加による長期的な経済発展が見込まれています※1。しかし、フィリピンでは銀行アカウントを所有していない人が多いため、今後の経済発展に伴う個人のファイナンス環境の整備は急務です。そのような中でフィリピン中央銀行(以下:BSP)は銀行アカウントの代替手段としてフィンテックサービスの利用を積極的に推進し、ここ数年で大きな変化が見られるようになりました※2。そこで本記事では、フィリピン経済とファイナンス事情をお伝えするとともに、フィリピンで徐々に利用者が増えつつあるフィンテックサービスについて紹介します。
※1 参照:人口ボーナス期で見る有望市場は / ジェトロセンター
※2 参照:Financial Inclusion in the Philippines / BSP
フィリピン経済の過去と今後
先進国のGDPが伸び悩んでいる中、現在世界的に注目を集めている地域の1つが東南アジアです。ここ数年、5〜6%のGDP成長を続け、今後もしばらくその成長は続くと考えられています(参照:Comparing economic growth across the world / Full Fuct)。
注目を集める東南アジアの国々の中でも、特に高い経済成長率を維持しているのがフィリピンで、6%前後のGDP成長率を維持しています(参照:Philippine GDP grows 6.1 percent in Q4 as inflation eases / ANS-CBN News)。

そして、この経済成長率は今後も続くだろうというのが大方の見方です。その大きな要因が、2050年過ぎまで続くと考えられているフィリピンの「人口ボーナス」です(参照:人口ボーナス期で見る有望市場は / ジェトロセンター)。人口ボーナスとは、総人口における労働者の割合が上昇し、経済成長が促進されることを指します。この人口ボーナスの恩恵を受け、フィリピンは今後、高い経済成長率を維持するだろうと考えられています。

フィリピンのファイナンス事情
経済が発展する一方、フィリピンではファイナンスがあまり機能していないという現状があります。まずはフィリピンのファイナンスの実情を見ていきましょう。
銀行アカウント
まず、銀行アカウントの所有率が非常に低いという点が挙げられます。BSPが2018年に発表した銀行アカウントの所有率に関する報告によれば、フィリピンでは成人の約4分の1しか銀行アカウントを所持していないとされています(参照:Latest BSP Survey Highlights Challenges and Opportunities for Digital Financial Inclusion / BSP)。フィリピン人が銀行アカウントを所持しない理由については、60%が「銀行に預けるお金がない」、21%が「銀行アカウントの必要性を感じない」と回答しています。
フィリピン人の銀行アカウントの預金残高を調べた別の調査では、5000ペソ(12月23日現在のレートでは、1ペソ=2.16円)以下と回答した割合が62%と最も多く、40000ペソ以上を所持している人は18%という結果でした(参照:How Much Money Does the Typical Filipino Keep in His Bank Account? / Esquire)。銀行アカウントを所持している人であってもその利用金額は非常に少ないのが現状であり、あえて銀行アカウントを開設していないという人も多数います。

フィリピンの給料日
フィリピンの給料支払いについて、フィリピンの労働法「labor code」には「雇用者は月に2回の給料日を設けなければならない」と明記されています。フィリピンの多くの企業では、手渡しによる給料の支払いが行われていますが、現金を準備するための企業側の負担が大きいこと、また従業員に積極的に銀行の利用を推奨する観点から、給料受け取り用の銀行アカウントを作成する企業が増えつつあります。
しかし既述のように銀行アカウントを持つフィリピン人でも最低限の額しか預けていないのが現状です。そのためフィリピンでは、給料日に生活費をおろす人々がATMで行列をなす光景が見られます。
また、給料日を過ぎた頃にもう1つみられる行列が、公共料金の支払いです。日本では公共料金の支払いは銀行アカウントからの自動引き落としが可能ですが、銀行アカウントが普及していないフィリピンでは、公共料金は窓口で支払うことになります。また、日本のようにコンビニでの支払いには対応しておらず、指定の窓口に支払いに行かなければなりません。そのため給料日に受け取ったお金で公共料金を支払う人々が、給料日当日や直後に窓口に詰めかけることになります。
クレジットカード
フィリピンは、クレジットカードの利用率が非常に低いことでも知られています。The Freemanの報告によれば、フィリピンのクレジットカード保有率は10%以下となっています(参照:Credit card usage remains low in Philippines / The Freeman)。銀行アカウントを所持していない人が大半な上に、銀行アカウントには十分な資金が預けられていないため、フィリピンでのクレジットカードの利用率は必然的に低くなります。また、クレジットカードの利用者が少ないことからクレジットカードに対応していない店舗が多く、たとえクレジットカードに対応していたとしても、スタッフがクレジットカードの扱い方を熟知していないことで、決済に長い時間がかかる現場を目にすることも度々あります。
フィリピンのファイナンス事情の改善に向けた取り組み
上記で見てきたようにファイナンス事情は芳しくないフィリピンですが、携帯電話の利用率は約90%と非常に高く、スマホを所持しているフィリピン人の割合は65%と報告されており(参照:Digital 2019 Philippines / We are social)、BSPはこの高いスマホの所持率に着目し、スマホを活用したフィンテックサービスおよびフィンテックアプリの利用を推進しています(参照:Financial Inclusion in the Philippines / BSP)。

例えばフィンテックアプリなら、ダウンロードした後に必要事項への記入や登録をしてお金を入金すれば電子マネーとして利用が可能になります。スマホを持っていればアカウントの開設が容易にできること、アカウント開設に必要な手数料がかからないこと、事前に入金した金額までしか利用できないことなどが、フィリピン人のファイナンス事情にマッチしているといわれています。(参照:E-money accounts eclipsing credit card penetration, BSP report shows / Newsbites Philippines)。
フィリピンで期待が高まるフィンテックサービス6選
このような理由から、フィリピンでは国内および国外で開発されたフィンテックサービスが徐々に人気を獲得し始めています。ここからはフィリピン国内で特に注目を浴びているおすすめフィンテックサービスとそのカスタマーサポート状況について紹介します。
GCash

フィリピンで利用されているモバイル決済アプリの中でも特に有名なのが、フィリピンの通信会社「Globe」が提供する「GCash」です。GCashアカウントの入金に対応した一部の店舗(Globeの店舗やセブンイレブンなど)にて事前にアカウントへ入金することで、フィリピンでの生活に役立つさまざまな機能が利用可能となります。主な機能としては、スマホ(携帯電話を含む)を利用するためのロード※の購入、請求書の支払い、映画予約、QRコードを利用した即時決済、オンラインショップでの支払い、送金などです。GCashを利用することで請求書の支払いが家庭にいながらすぐに行えるため、忙しい社会人には重宝されています。
※ロードとは、フィリピンでスマホ(携帯電話を含む)を利用するために必要なポイント(金額チャージ)のようなものです。フィリピンでスマホを利用するためには、コンビニなどでロードを購入するか、通信会社が販売するロード用カードを購入し、そこに記載されているピンコードを利用し、スマホにロードを移します。そのロードを利用し、自分にあった通話プランやデータ通信を購入することで、スマホの通信機能が利用可能になります。
なお、Globeのプランでスマホを利用する例(参照:GlobeWebサイト)をご紹介すると、
500ペソのGlobeロード用カードを購入 → 500ペソのロードをスマホに移す → 500ペソ未満のプランの申し込み(例:30日間で2GBまでデータ通信が可能:299ペソ)→スマホでデータ通信が可能
となります。
通常は、ショッピングセンターやコンビニでロード用カードを購入しなければなりませんが、GCashの電子マネーを利用することでロード用カードなしでロードを購入することができます。
「GCash」のフィリピン国内の登録者数は2019年現在、2000万人を超え、6万3000店で利用が可能です(参照:GCash公式Webサイト)。マニラなどの都心部では対応店舗が増加している一方で、地方では利用できる環境が整っていないといった問題も抱えていますが、インフラ整備が進むにつれ、活用の機会は増えていくのではないかと予想されています。
GCashのカスタマーサポート
WebサイトにはHelp Centerのページが設けられており、FAQが記載されています。また、それでも解決できない場合は、チケット作成ページから問題の詳細を送信することで、E-mail経由で回答を受け取ることが可能です。
PayPal

アメリカ発のデジタルファイナンスプラットフォーム「PayPal」は、モバイル決済のほか海外旅行や越境EC、グローバルビジネス、国際送金などの機能がありますが、特にフィリピンで利用されているのが国際送金です。フィリピンは国外で出稼ぎする労働者が多く、国際送金が頻繁に行われています。海外で働いているフィリピン人に常用されているフィンテックサービスです。
PayPalのカスタマーサポート
ヘルプページには、個人的な問題に関するヘルプ、ビジネス利用時のヘルプ、テクニカルサポートの3つに関するFAQが記載されています。また、それでも問題が解決しない場合は、アカウントにログインした後、メールや電話での相談が可能です。
Tala

融資の分野で注目を集めているのが、メキシコ、フィリピン、インド、ケニアの4か国に拠点を置く「Tala」です。フィリピンで融資を受けるには、一般的には銀行アカウントが必要となりますが、Talaではスマホと個人IDのみで融資を受けられるという特徴があり、個人情報およびいくつかのデータを記入することで最大1万ペソまでの融資を受けることができます。利用可能金額がそれほど大きくないため、フィリピンでは比較的利用しやすいフィンテックアプリとして認知されており、突然お金が必要になった、というような場面で活用されています。
Talaのカスタマーサポート
サポートページには、よくある質問とその解決法が記載されています。ユーザーへの電話対応は行っていませんが、メールおよびチャットでのカスタマーサポートを週7日体制で設けられています。
CARD bank

「CARD bank」は、マイクロファイナンス(貧しい人々向けの小口融資や貯蓄サービスなど)を取り入れたフィリピンの銀行で、生活のためにお金が必要な女性や家族、もしくは新規事業の立ち上げのために資金が必要な起業家に向けた融資をしています。フィリピン国内に55の拠点があり、スタッフが顧客一人ひとりに真摯に対応することで利用者を着実に増やしています。また、融資のほか、利用者が将来のために貯蓄を増やしていくための適切な預金計画の提案や、国内、国外送金サービスのサポートなども行っています。
CARD bankのカスタマーサポート
基本は、利用者が支店に直接出向きスタッフと相談する形がとられますが、お問い合わせページでは、CARD bankへのメッセージの送信ができる他、カードの紛失または盗難時の24時間対応ホットラインサービスも用意されています。
Cropital

「Cropital」は、農家への支援金を集めるクラウドファンディングプラットフォームです。フィリピン最大規模のテクノロジー系スタートアップイベント「Ignite2019」において優勝し、フィリピン国内で注目を集めています。フィリピンでは、農業が国の重要な産業であるとされながらも、農業従事者の給料を始めとした待遇が非常に悪く、そのような状況に危機感を感じたルエル・アンパロウ氏は、農家の支援を目的としてCropitalを立ち上げました。Cropitalが農家を支援することでフィリピンの農業従事者の待遇が改善され、雇用が拡大するのではと期待されています。投資家はまず、登録された農場から投資先を選択します。農場は、各投資家からの投資金額の合計が必要額に達した場合、その投資金を受け取ることができ、耕作を開始できます。最終的にその農場が収益を上げた際には、その一部が投資家に還元される仕組みです。
Cropitalのカスタマーサポート
ヘルプ&サポートのページに、FAQが記載されています。また、それでも解決できない場合は、アカウントを所持しているユーザー限定で、テキストメッセージでのサポートを受け付けています。
First Circle

フィリピンの中小企業を対象に融資を行っているのが「First Circle」です。新しいビジネスを始めようとしても資金がなくて始められない、もしくはビジネスを拡大したいけれどその資本がないという経営者のためにサービスを提供しています。独自の審査基準を採用しており、銀行で融資が受けられない人であっても審査が通過する場合があるため、フィリピンの起業家を中心に利用されています。また、融資金額も1万〜1000万ペソまでと幅広く、さまざまな規模の企業に対応しています。
First Circleのカスタマーサポート
FAQのページが設けられている他、Contact Usのページからはサポートデスクに移動することができ、平日の9時から18時まで、電話、メール、チャット、また各種SNSでの問い合わせに対応しています。
終わりに
本記事では、フィリピン経済とファイナンス事情、および最近注目を集めているフィンテックサービスとカスタマーサポートについて紹介しました。
フィリピンでは今後も人口が着実に伸び続け、2050年には1億5000万人を超えると予測されています(参照:フィリピンの人口推移と将来予測 / 日本と世界の統計データ)。今後、ますます多くのフィリピン人がファイナンスを必要とすることから、フィンテックアプリおよびサービスの重要性は増すだろうと予想されます。
フィリピンの各企業のWebサイトは基本的に英語で構成されていることが多いのですが、今後より多くの国民にフィンテックサービスが提供されていくことを考えると、英語の他にタガログ語(フィリピン語)でのサポートの重要性にも注目しておく必要があるでしょう。
弊社アディッシュでは、フィリピンに拠点を置き、成長の著しい東南アジアにおける多言語によるフィンテックのカスタマーサポートを代行しています。もちろんタガログ語でのカスタマーサポートも可能です。ご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。